東京ソテリアは、主に精神障害を持つ方の支援を行うNPO法人で東京都江戸川区に拠点があります。グループホームや地域活動支援センター、就労継続支援A型事業所を運営するほか、居住支援法人の指定を受け、住宅確保に困難のある方のサポートについては対象を障害者に限らず広く展開しています。
ある年の冬、地域生活定着支援センターから支援協力の連絡が入りました。
対象者は、30代女性のAさん。窃盗行為により矯正施設に入っていました。頼れる親族はおらず、精神疾患を患っていることからグループホームでのサポートが必要と言う話でした。顔合わせのために私たちが矯正施設へ赴くと、矯正施設及びセンターの職員に囲まれ、少し気怠そうに、しかしそれ以上にひどく緊張した様子のAさんがそこにいました。私たちはグループホームの制度説明を行い、Aさんが地域で安心して生活できるようサポートする旨を伝えましたが、複数の大人に囲まれたこの状況でどこまで話を理解していただけたでしょうか。
それからしばらくの後、Aさんが私たちのもとへやってきました。
それからの生活は、まさに波乱万丈でした。グループホームの近くには繁華街があり、生活費全てをギャンブルに費やしてしまったことからギャンブル依存が分かり、市販薬の多量摂取をして緊急搬送となることもありました。地域社会での生活には自由がありますが、自由とは時に不自由を生みます。
金銭や生活リズムの調整など、矯正施設を出た後も本人の生活は思い通りになるわけではありませんでした。Aさん自身にとっても負担が大きかったことでしょう。
「なぜAさんは窃盗行為に至ったのか。その背景には、どのような生育環境や本人の特性があったのか。」日々の関わりのなかで、繰り返し考えてきたことです。家族との不和、信頼していた人の死、病気、経済的困窮。Aさんに降りかかった不幸は、実は普遍的なものかもしれません。私たちは誰もが、いつ崩れるか分からない橋の上を渡っているのです。たまたま転げ落ちてしまったAさんを、私たちは手を差し伸べこそすれ、責めることはできません。そのような気持ちを職員同士で共有したからこそ、振り回されながらもAさんと共に悩み、生活することができました。
人や場に慣れてきたころから、Aさんは買出しの手伝いやグループホームで飼育している犬の散歩を進んで行うようになりました。このような役割も、Aさんに前向きな動機付けを促していったことでしょう。
その後、グループホームを出たAさんは一人暮らしをしています。病状や金銭的な課題はまだ残っていますが、余暇を楽しみ、いつか家族と円満になることを目標にしています。また、Aさんとの出会いをきっかけに当法人でも依存症の回復プログラムを試みるようになり、もちろんAさんも参加しています。人とのつながりが、組織や地域を変えていくのです。
私たちは、再犯を全て防ぐことはできないし、また、それを目標に掲げる支援を行おうとも思っていません。ただ、「人生の障害を乗りこえるよろこび」を本人と共に体験したいだけです。共に悩み笑った日々の積み重ねが、「結果として犯罪に手を染めず とも生活できていた」となることを信じて。
※個人情報保護のため、事例は複数の利用者を合わせ架空のものとしています。