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COLUMN 2

協力雇用主としての日々に

美紘建興株式会社 代表取締役
(協力雇用主/東京都認証ソーシャルファーム) 平中 洋行

 当社は東京都町田市で型枠工事業を営んでいます。協力雇用主であるとともに、東京都認証ソーシャルファーム(注)としても活動しています。


 「時にお互いを苦々しく思うことがあっても、一緒に喜び・楽しみ、苦しみ・悲しみ・悔しさも共有しそれを一緒に乗り越え、共に希望を持って職業人生を歩んでいく」…。協力雇用主としてそんな希望をもっていた。しかしそこは相手のあること。当然ながら実際はそんなに上手くいくわけもなく、とても一筋縄ではいかない。やり場のない憤りや虚しさを感じ、後悔の念にかられ、自分の不甲斐なさに打ちのめされる日々である。
 9年程前のこと。面接後、採用を伝えると「たくさんの面接に行ったけれど履歴書の空白期間(服役)が引っかかりどこにも雇って貰えなかった。」「やっと働ける。」「ありがとうございます。」と涙していた。が、数年後にあえなく失踪。寮に大量の荷物とゴミを残していった。寮・生活用品・仕事道具など準備万端整えて迎え入れても失踪する者は多い。雇用契約書記載の通りの手続きを踏んで辞めていく人には、長く在籍する従業員から感嘆の声が上がるほどである。やむなく退職の手続きをした後も気が抜けない。どこぞの警察から連絡がくることもある。電話のディスプレイに『0110』の数字が浮かび上がるのだ。気に入らないことがあると欠勤、現場から逃走、揉め事を起こす。ギャンブル、前借り、借金・税金などの滞納、時々給与差押え。「今度は誰だ!? 何が起きた!?」と、なかなか気が休まらない…。
 とはいえ、悪いことばかりではない。手を貸すことで変化が起こり、それぞれの人生を歩き始めていく姿を見られるのは協力雇用主の醍醐味といえる。更生保護施設から通い始め会社にも慣れてきた頃、入社前に起した別の罪により、出勤前の早朝に警察に連行されてしまうという出来事があった。結果は服役。しかし本人から「出所後に戻りたい」との申し出があった。希望を失い自暴自棄にならないよう連絡を取り続け、必要なものは差し入れし、飛行機に乗り空港からレンタカーを走らせ面会に行った。待っているからと伝え続け、ひたすら帰りを待った。出所の際には迎えに行き、帰り道で一緒に蕎麦を食べた。会社名が入った揃いの紺色の作業着を着て現場に立った姿を見た時は、あまりに眩しくて目が潤んだ。彼は今でも当社の職長として現場に立ち、プライベートでは家族もできた。素晴らしい!! そこまでドラマチックでなくても、少しずつ前借の頻度や金額が減っていく、欠勤が減っていくのをみれば嬉しい。借金・滞納・差押が終了したときのホッとした安堵の顔が見られればこちらも安心する。暗い顔をして自信がなさそうだったり、いつも不機嫌そうだったりした姿が、同僚と冗談を交えながら笑顔で生き生きと働いている姿に変わっていくと本当に嬉しい。そういった積み重ねこそが協力雇用主を続けるモチベーションとなっている。

 私達はみな違う人間で、同じ人は一人としていない。違いを認識し、お互いを尊重して認め合い、共に生きていきたい。よくないところは改善しながら…。
 私達のところからは居なくなってしまったあの人も、どこかで笑顔で過ごしていてくれたらと思う。

(注)「ソーシャルファーム」とは、自律的な経済活動を行いながら、就労に困難を抱える人が、必要なサポートを受け、他の従業員と共に働いている社会的企業のことです。東京都は、ソーシャルファームの創設及び活動を支援するため、支援対象となる事業所を認証しています。