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COLUMN 8

協力雇用主になるということ・協力雇用主のもとで働くということ

株式会社拓実建設 代表取締役 柿島拓也
従業員 島袋洋一

【柿島】
 当社は設立して3年半、首都圏の大型物件など、建物の内装解体などの仕事をしています。従業員が減って困っていた頃、法務省のコレワークのホームページで協力雇用主について知り、登録しました。要請があれば全国の刑務所等に赴いて面接を行い、これまで刑務所・少年院を出た人を10名以上雇ってきました。
 従業員には、「会社はお金を稼ぐところ。寮に女の子を連れ込まない、寝坊は1ヶ月に3回まで。しっかり仕事をしてくれれば給料は渡す。」と伝えています。その他、目上の人への礼儀などもしっかり教えるようにしています。
 協力雇用主になり、少年たちが成長していく姿を自分の目で見られることにやりがいを感じています。例えば、寝坊や遅刻ばかりしていた少年に自覚を促すために大きな現場のリーダーに抜擢したところ、次第に責任感が出て、はきはきといろいろなことを話してくれるようになりました。
 また、お金の管理がうまくできない少年には、細かく説明しながら一緒に管理することで、毎月親への仕送りもできるようになり、本人も自信がついたようです。
 一方で、嘘をつかれたり、当社の寮から家財道具を持ち出されたりして落胆したこともしばしばあります。
 そんな中でも「従業員と雇用主(自分)は対等な立場」であることを意識し、「当社で働いている期間に従業員たちが悪いことをするのを一つでも減らしていこう」という気持ちで日々彼らと向き合っています。


【島袋】
 僕は3回刑務所に入りました。初めは「何度も刑務所に入るやつはクズだ」と思っていたのに、自分がそうなってしまい、何を考えていたのだろうと今では思います。3回目に刑務所に入ったときは、「人生終わったな。今までの家も知り合いもすべて捨てよう。」と思い、出所後、誰にも連絡をしませんでした。
 入所中、「出所したらすぐに生活保護を受ける」という話をする受刑者もいましたが、僕は絶対に受けたくないと思っていて、出所後ハローワークに行ったところ、拓実建設を紹介され、今に至っています。
 最近、協力雇用主をはじめとしたいろいろな制度を知って感じるのは、「受刑者が早い段階からいろいろな支援について知ることができる機会があるといい」ということです。僕も刑務所にいた時は、国が行っている就労支援程度しか知りませんでした。

事務所で執務に当たる筆者(島袋)

現在、僕は内勤をしていますが、柿島社長からは、よく「現場で働く従業員の声もしっかり聞くように」と言われます。これまで世間から見捨てられた気がして、他人を信用できていなかった僕ですが、「会社って自分たちのことを考えてくれているんだな」と初めて思いました。
 家庭環境は大事だと思います。今、僕には子供が二人います。守るべき、支えてくれる温かい家族ができたときに初めて人生観が変わり、何のために仕事をするかを考えるようになり、中途半端なことはできないと感じています。
 柿島社長から教わった「真剣に働くということ」、家族から教わった「支えあう人がいる幸せとその笑顔のために働くこと」を、今度は僕が誰かに伝えていく番だと思っています。

(令和元年12月執筆)